スポンサーサイト

Posted by りん on --.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Time Works Wonders

Posted by りん on 06.2015
【ゆのみん企画】(画像で妄想)
同じテーマで書いた皆様はこちら♡
http://yunomin.seesaa.net/s/article/398305338.html







群青色の澄んだ空気。

ソウルでの仕事を終えて、
週末を過ごす町へ。

降り注ぐような星の数々。
潮のにおい。

病室の扉をノックする。

「ユノ?」

躊躇うように静かに開いた。


「こんばんは…」

初対面みたいに不安そうに俺を見る。

「中に入っても?」

「え、あぁ…どうぞ」

ユノは困惑したような微妙な笑みを浮かべたまま。

それでも俺の前に椅子をコトンと置いてくれた。

そこに腰を降ろして

「元気にしてた?」

尋ねると、小首を傾げて考えている様子だ。





もう半年近くもこんな会話を交わしている。

つまらない喧嘩をしたまま別れた日。

ユノは自転車で出社途中で交通事故にあった。

たいした怪我じゃないと、安堵したのも束の間。

ユノは俺とのことだけを忘れていた。

何年も暮らした家も。
この子のことも…。





あの朝、つまらない意地を張って。
ユノの顔を見もせずに出かけてしまった。

思い出すのは。
マグカップを持ったまま、俯いていた後ろ姿ばかり。





気まずい空気を察したかのように、
ユノの膝の上に音もなく乗って
鈴の鳴るような声で甘える。

琥珀色の毛色。
三年ほど前、道端で震えていた子猫をユノが連れ帰ってきたのだ。

ふたりで我が子のように大切に育てた。
雨の夜に出会ったから、名前は雨。





「ユノ、雨をお世話してくれて本当にありがとうございます」

「いえ…」

微笑むと愛おしげに雨の鼻の上を撫でた。

「この子をお迎えに来たの?」

ユノは寂しげに聞いた。

「申し訳ないんですけれど、あと一週間お願いできますか」

「もちろん!いいよ」

「ありがとうございます、お願いします」

雨をユノに託して、俺は帰る。
そんな週末の繰り返し。





ユノのまだらになった記憶を取り戻すために。

焦る気持ちは胸にしまって。

おとなしく穏やかな猫の雨。
病棟の看護師さんやセラピードックとも仲良くやっているようだ。

お前だけが頼みの綱。








季節が変わりゆく。

低気圧が近付いているのだろう週末。
雲が厚く風が湿っぽい夜。

ユノを訪ねると長身を赤ん坊のように丸めて、もう寝息をたてていた。

そこに組み木細工のようにぴったりとはまっている雨。




俺たちの日常の風景だった。

雨に寄り添うユノの背中を
後ろから抱いて眠った幾つもの夜。

当たり前に朝は来て、

いつまでも続いていくのだと疑わなかった。




もう戻らないかもしれない記憶。

せめて俺が…
鮮明に覚えていたかった。

笑顔を。
貴方と俺の全てを。




そっとベッドに腰掛け、背中に手のひらで触れる。

あぁ…ユノ…

俺のユノは何処に居る?
早く戻っておいで。

静寂に響く、降り始めた雨音。
ユノの鼓動。

規則的な寝息を聞きながら、久しぶりにユノの傍らで深い眠りに堕ちた。





「チャンドラぁ、海に行こうよ」

妙にしおらしく誘う声。

ぅん…伸びをすると、雨の柔らかな被毛に指が埋もれた。

「ユノっっ!?」

跳ね起きると、俺の顔を真っ直ぐ見つめるユノのはにかんだ顔。

「ユノ、思い出した、の?!」

「雨は、僕とチャンミンと…一緒にいつも寝て…」

「そうだよ、雨はユノと俺の猫だよ」

雨はニャアと鳴いて、俺とユノと交互に小さな頭を擦り付けた。

ユノの瞳が安堵からか潤む。

「忘れるわけないと思ってた…俺のことを思い出せなくても…雨の温もりだけは…」

「あははは」

俺の言葉が自虐的に聞こえたのか、ユノは声をたてて笑った。





ふたりと一匹の
ありふれた毎日。

けれど…
ユノという存在。
貴方といる時間。

全てが素晴らしい贈り物だったんだ。





病院の前の海まで
雨上がりの濡れた道を

手を繋いで歩いた。

ただそれだけで胸がいっぱいになる。

ユノ、おかえり。

毎日、愛してると言うよ。
毎日、ありがとうと言うよ。
毎日、たくさんのキスをするよ。

流れては消えていく星に誓った。

空が白んでいく。

抱き寄せると、
俺の肩に顎を乗せて、
背中にユノの大きな手。




Time Works Wonders
時は奇跡を起こすと言うけれど。

この胸に抱く存在こそが、

何でもない一瞬一瞬が、

眩いばかりの夜明けが、




奇跡なんだ。











スポンサーサイト
Category : Time Works Wonders
▲ top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。